Daisuke Obana

Interview with
Daisuke Obana ( N.HOOLYWOOD )

永遠の3番手という最高のポジション
/尾花大輔(N.ハリウッド デザイナー)

1960年代にカウボーイのドレスアップ用として生まれた、ラングラーランチャードレスジーンズ。今回、デザインを新たにN.HOOLYWOODとのコラボレーションによる復刻モデルをリリースした。それを記念し、デザイナーの尾花大輔さんにその思いや製作背景を取材。彼が愛するラングラーの魅力とは。

Photo Riki Yamada
Interview & Text Tatsuya Yamashiro
Edit Takayasu Yamada (THOUSAND)

先ず、ラングラーのイメージから教えてください。

ラングラーというと、アメリカ3大デニムブランドとして有名ですね。その中でも一番マニアックな存在がラングラーだと思います。そして、長い歴史がある中で軸が全くブレていない印象があるブランドです。皆さんもご存知の通り、カウボーイやファーマーからの支持率が圧倒的で、特にテキサスでのシェアが多い。ファッションの一貫としてデニムを扱うブランドが多い中、ラングラーは今も尚、カウボーイのためにデニムを作っている。センタークリースがバシッと入った穿き方をブランドやお店で提案していたり、その精神がずっと息づいていますよね。そんな軸がありつつも、ラングラーはファッションデニムをいち早く提案していて。ピーター・マックスやホパロング・キャシディなど、著名なデザイナーやアイコンとコラボをして服を作るというアプローチもラングラーがパイオニア的な存在だと思います。

2014年春夏のN.ハリウッドでは、「TWO-GUN HART」をテーマに、カウボーイから着想を得たアイテムが多く見受けられました。

そうですね。その時もラングラーとコラボしました。架空のカウボーイ、ホパロング・キャシディのスタイルをオマージュしたコレクションです。過去にラングラーとコラボレーションした数々のアイテムの中でも、ホワイトステッチを効かせたブラックツイルのアイテムは、特に印象に残っています。

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N.HOOLYWOOD 2014 SPRING/SUMMER

ラングラーとのコラボレーションはいつからですか?

2002年にN.ハリウッドでルシファー(悪魔)をテーマにしたコレクションを発表したのですが、その時が最初です。もう20年も経ちますね。パターンも一から全部作ったコレクションでした。なかでもブロークンデニムのブーツカットは特に記憶に残っています。クリースラインを裏側に向けて作ったのですが、そうするとクリースが谷になるから色落ちが普通とは逆になるんですよ。それが面白いなと。なぜそうしたかと言うと、ルシファーってもともと天使だったという話もある通り、天使と悪魔は表裏一体。洋服ってひっくり返すと全然違った表情を見せたり裏側のディテールが面白かったりするじゃないですか。それを表現したかったんです。思い出深いコレクションでした。

ラングラーとN.ハリウッドを見ていて、共通する空気感を感じるのですが、ご自身ではどうですか?

ラングラーって"永遠の三番手"みたいなイメージが僕にはあります。もちろん褒め言葉です。そこの立ち位置でいうと、N.ハリウッドと似ているなと感じますよ。僕らも日本における永遠の三番手をずっとイメージしてきたので。ラングラーってどうみても一等賞ではないじゃないですか。そこがすごくクールだなと思います。それはきっと、作り手が自分たちのやりたいことを貫いてきて、偏った拘りがブランドの根底にずっとあるからだと思いますね。だからこそコアなファンが多いし、マニアックに見ている人からすると好感をもてるのだと思いますよ。デニムブランドでこれだけアイテムの幅が狭いブランドって珍しいですよね。"限られた魅力がある"って凄いことだと思います。

Collaboration Product Wrangler WRANCHER DRESS JEANS
/ Wrangler × N.HOOLYWOOD

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昔から変わらない
引き算の美学

今回のラングラーランチャードレスジーンズはどのような経緯で製作されたのでしょうか?

20代の頃から愛用してきましたが、今の年齢で穿くと当時とは違った発見があるんじゃないかと思い製作しました。N.ハリウッドの前に自分がバイヤーを担当していた古着屋、ゴーゲッターでもポリツイル地のスラックスを売っていましたし、その頃から自分でもよく穿いていましたよ。初めてコラボして復刻した2006年の頃は、ゴルフウエア等にしかポリツイル地のパンツって浸透しておらず、僕からラングラーさんに話を持ちかけたのが始まりだったと思います。1回目の復刻から光栄なことにもの凄く人気で、今回で4回目になりますね。

PHOTO写真はN.HOOLYWOOD 2008年春夏"AFTER SPUTNIK"期のコラボレーション
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パターンに関してもN.ハリウッドで製作されたのでしょうか?

N.ハリウッドでコラボレーションしている、どのブランドとのアイテムもパターンに関しては、僕たちで作ることがほとんどです。ただ、ラングラーとコラボするときは、ラングラーオリジナルのパターンを使わせてもらっています。糸のバランスや縫い方、色落ちに関しても縫製側の都合やヴィンテージ特有の方程式が存在していて。ラングラーの生産背景には、その土台がしっかりとあるので、餅は餅屋的な考え方で彼らに委ねることが多いです。そうしたほうが、よりヴィンテージのような存在感のあるアイテムに仕上がるんです。

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パッチレスのポケットが、このコラボレーションの象徴的なデザインだと思いますが、どのような意味合いがあるのでしょうか?

経年でパッチのレザーや紙ラベルが外れたりすると、跡が残るじゃないですか。それが純粋にカッコイイなと思って再現しています。パッチを外すっていう点でいうと、昔、某ブランドのスニーカーを履く時にロゴを外して履いたりしました。その背景として、90年代中盤頃にリメイクが流行った際、世の中は足し算のデザインが主流でした。古着で売れない商品は後染めして売っていたり、ファッションブランドでもリメイクや加工が多く見られました。そういった足し算のリメイクが流行っている時代のなか、僕は古着バイヤーからスタートしたのもあってか、その足し算の作業ってどうしても美しく見えなかったんですよ。ブランドを始める前も、軍モノのポケットやワークウエアのディテールを外してみたり、どちらというと引き算の方が好きで。その考えは今でもずっと根底にあります。なので、このパッチレスのポケットは僕らしいディテールになっているのかなと思います。今回の復刻は、TEIJINのソロテックス生地を使っていて、伸縮性がよく、形態回復などの特徴があって良いですよ。特に若い人に着てほしい。おじさんっぽいアイテムだから若い人が着ることで、少し背伸びした感じがして格好良く見えると思います。逆に言えば、おじさんが普通に着るとおじさんっぽくなるから注意しないといけないアイテムでもある。ポリエステルのツイルパンツって年齢制限があると思うんですよね。デニムの方は年齢制限なく、誰でもさらっと穿けるので、今日はヴィンテージのノースフェイスのダウンベストと合わせて、アメカジ感覚で着てみました。若い頃と着こなし方は変われど、歳をとった今なりにラングラーランチャードレスジーンズを楽しんでいます。

Archives & Collection

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今日尾花さんがお持ちいただいた私物についてお聞かせください。

(写真左) 2011年に発売したラングラー×N.ハリウッドの復刻ランチコートです。2004年に発売した最初のモデルは某人気男性アイドルが着用したこともあって、お店には行列、電話が殺到したりでとにかく人気を集めたアイテムでした。2011年に作ったこのモデルは復刻のつもりが、前モデルが人気すぎてサンプルすら残っていなかったことで、実は色が合っていなかったということを、ちょうど先週くらいに知りました(笑)。というのも最近になって2004年の1stが見つかって、それで気づいたんです。今年中に当時の色と同じものを復刻する予定です。番宣みたいになってすみません(笑)。ベースは、ラングラーさんのオリジナルボディを活かした仕様です。大きな特徴としては、トップにスナップボタンを作って立ち襟でも着れる仕様にしたところですかね。あとはタグも結構イジりました。当時は、ロン毛でこのランチコートを着て、ラングラーランチャードレスジーンズを合わせるという格好をよくやっていました。

商品詳細はコチラ
(写真中央)80年代後半~90年代初頭に作られた顔料プリントのシャツ。ウエスタンヨークなんですが、ボタンはベーシック。ウエスタンシャツからインスパイアされた、デザインシャツっていうのがお洒落だなと感じます。

(写真右)2020年AWのラングラー×N.ハリウッドのFRシャツ。ファイヤーレジスタンス(FR)は、もともと消防士や火の近い環境で働く労働者が着るもの。本当のオリジナルはHRC2というアメリカの防炎基準がワッペンに書いてあったりします。僕らも日本の防炎基準をクリアするものを作りたかったので、構想から着地まで2年半くらいかかりました。ワークとウエスタンの合いの子みたいな作りが面白いと思います。リップストップ生地もポイントになっていたり、拘り過ぎてプライスが高くなってしまったのですが、こういうエゴで作ったものは今でも良いなと思えますね。

プロフィール

Daisuke Obana

1974年神奈川県生まれ。原宿のヴィンテージショップ、ヴォイス、ゴーゲッターを経て、2001年にN.HOOLYWOODを設立。最近では、東京オリンピック・パラリンピックの聖火リレーユニフォームをデザイン監修するなど、活動の幅を広げている。