Nov.15.2018
no1
"普遍的なアイテムだからこそ
デニムは挑戦しがいがある"
Photo Yuto Kudo
Interview & Text Takayasu Yamada(THOUSAND)
ファッションアイテムの中で最も定番的とも言えるデニム。
日常的にファッションスタイルに取り入れている人も多いのではないか。
今回からスタートするこの企画では毎月スタイルを持った人物に、自身のデニムスタイルでラングラーを着て貰い、取材。
普遍的なアイテムであるデニムとの付き合い方をこの企画を通し、改めて考えたい。
第一回は、ファッションブランド"HOLIDAY(ホリデイ)"のディレクターである菊池紀子さんに聞いた。
まず菊池さんのファッションスタイルとは簡単に言うとなんでしょうか?
"違和感"かなと思います。そう感じたのはよく周りの人からスタイリングについて突っ込まれるからです(笑)。正直自分ではよくわかりません。でも自分らしく自分にしかできないスタイルを常に探してはいます。デニムパンツがあるとしたら、今日は何と合わせようかという考えにプラスして、自分らしさを出すにはどうしたら良いのか日々無意識に考えていると思います。きっとそれは、クリエイティブな仕事をするようになってよりその意識は強くなっていると思います。
よく身に付けるものや着こなしのルールはありますか?
サングラスとメガネ、あとジュエリーです。普段はなるべく手ぶらでいたいから、ミニ財布とiPhoneくらいしか持たないので、身軽でいたいというのはルールかもしれません。だからホリデイの服には適度な収納性を持たせるように必ずポケットを付けているんです。
菊池さんのファッションスタイルのルーツはなんですか?
高校時代を送った90年代と、一番多感な20代の頃に働いていたメンズ業界だと思います。
90年代は、周りの友達がスケボーをやっていて。自分もステューシーのTシャツに、デニムやデッキーズ、足元はヴァンズのスケートハイやオールドスクールを合わせるようなドンズバな格好をしていました。周りにはプロスケーターを目指している子もいたりして、そういう友人たちの洋服の着こなしが格好良いなといつも思っていました。メンズ業界で仕事をしようと思ったのももしかしたらその影響があったのかもしれません。その後、20代はメンズブランドに10年勤めました。当時、2000年代前半の裏原ブームが盛り上がっている時代で、先輩も仕事関係の方もおしゃれな男性たちが周りにいっぱいいて。みなファッションやその周りのことに対してとにかく敏感で、たくさんのことをその時に学びました。そんな中で何事にも本物を見極める良し悪し等を教えて頂いた気がします。
菊池さんには男性的な格好良さを感じるのは、そういう背景からきていたんですね。
これは女の子の現場での会話で、「男の人たちの方が身なりとか細かなところまで気を使ってますよね」って言われて初めて気づいたんですが、確かにカバンの中ひとつでもポーチに仕分けてセパレートしていたり、靴やジュエリーなど常にメンテナンスしていたり、ハンドクリーム塗ったり、爪をこまめに切るだったり......。それ、私も自然にやっていたんです。周りの女の子に指摘されて、それって女性の中では違和感なのかなとも思いました。
SNSなどでも菊池さんは普段からデニムを身につけていることが多いイメージがありますね。
自分のワードローブの中ではナンバーワンに上がるものだと思います。実際にホリデイでもデニムのラインナップは多く、ブランドを代表する商品になってきています。それはデニム好きな自分からすると本当に嬉しい限りです。
もともとデニムが好きになったのはいつからですか?
それも90年代のアメカジブームの影響だったと思います。日本で爆発的にヒットしたのはその時代で、ファッションとして捉えられるようになったのも90年代が大きい。私もその時代の人間なので必然的にデニムの世界に入って行ったように思います。
デニムのスタイルをする上でのこだわりは?
デニムってカジュアルの代名詞。何にでも合うけれど、正直みな同じような着こなしになりがちです。そのためデニムを着る時は、ほかのどの服よりも考えてスタイリングします。フォーマルなアイテムよりも私の中ではデニムを着る時が一番緊張感があるんです。
今日はセットアップですが、実際にセットアップはレベルが高い着こなしですよね。
そうですね。やっぱり違和感ですよね、きっと(笑)。あまりデニムをセットアップで着る人がいないからこそ、私にとっては挑戦しがいのあるスタイリングなんです。デニムって想像を超えるスタイリングを考えさせてくれるアイテムだなとつくづく思います。ジャケットはメンズのLサイズですが、パンツはレディースのXSサイズ。上下でサイズを極端に変えるだけでも着方が変わったりもしますよね。合わせるアイテムも腰に着けたクロムハーツのキーリングで男っぽさを出しつつ、リップは真っ赤で、ジュエリーはハート型だったり、でも足元はパンプスじゃなくて敢えて王道のコンバース。そういうちょっとずつの違和感を加えていくことで、デニムってこうもカジュアルから抜けていくことが出来るんじゃないかと思います。
今回選んでいるラングラーはワンウォッシュですね。
リジットや加工物も色々穿くんですが、たまたま気分がワンウォッシュで。元々、ワンウォッシュで販売されているからすでに味は出ているんですが、私はさらにその先を出来る限り早く見たくなってしまうんです。このセットアップも、着る前に何度か漂白剤入りの粉石鹸で洗ってから着ています。そういう着る人のこだわりを出せるのも、デニムの良さだと思います。
今日のような格好はどういう時に着ますか?
デニムのセットアップは私の中では正装なんです。ホリデイではデニムが代名詞になっているので、スーツのブランドを作っていたらスーツを着るのと一緒。だから、商談などここぞという時にはデニムのセットアップを着ています。
昔から持っているという私物のラングラーも今日持ってきてくれていますよね?
70年代の13MWZで、どストレートな潔いシルエットが気に入っています。ヴィンテージショップで購入したもので、元から結構なダメージが入っていたんですが、穿いているうちに穴が広がってきたので、自分で直しながら穿いてきた1本です。リメイクは結構、自分でやります。スタッフのもやっちゃうくらいで、穿かなくなったデニムの生地も端材で置いておいたりもしています。ダメージを自分で直して、愛着を持って接することが出来るのもデニムならではだなと思います。
これを穿いた時に脚がすごく長く見えたんです。古着なのになんでこんなにもストンと綺麗なシルエットなんだろう。って。自分で服を作り始めて気付いたんですが、両サイドがダブルステッチでストレートだからなんだと。作業着の要素が強いラングラーならではのディテールですね。多分、当時の人はファッション面というよりも強度で考えていたと思うんですけど。それが50年経った今、ファッションとしても美しく穿けるというのがすごく面白いです。
菊池さんにとってラングラーの魅力とは?
他のデニムブランドの中でもラングラーにしかないのは、工業感というか、頑固親父感みたいなところですかね。今となってデニムはファッション寄りなシルエットやディテールの物が増えている中、ラングラーは頑としてそっちに行きません。みたいな(笑)。そんな強いプライドを感じるところが素敵です。だからこそ、容易に手は出せないし、ハズしで着る、ということも失礼だと思ってしまうほど。だから本気で使わないといけないと思って、少しでもそのイメージに近づけるように今回ワンウォッシュを選びました。そういうオリジナルのデニムが持つ必要性のあるディテールは、ホリデイでも参考にしています。すでに市場には良いデニムがたくさんあります。そんな中、レディースブランドらしくないかもですが、ホリデイのデニムは穿きやすさや女性ならではのセクシーなシルエットは追求していません。縫製やディテールに拘るのはもちろんですが、とにかく穿いた時の美しさを追求しています。例えばお尻を潰して小さく見えるようなシルエットにしたりして。私は、デニムには男性のような格好良さを求めてしまいます。
レディースブランドの販売員を経てメンズブランドに10年携わる。2012年よりフリーランスとして活動をスタート。2017AWより HOLIDAYのディレクターとなる。
Instagram @norikokikuchi
HOLIDAY OFFICIAL Instagram @holiday_official_2016
今回取材した場所、HOLIDAY直営店サロン「OFFICE」は毎週火曜と金曜にオープン中。